ドキュメンタリータッチでお楽しみください。
※イメージはNHK番組“プロジェクトX”
ナレーションは田口トモロヲの声、BGMは地上の星(中島みゆき)、を想像しながら・・・。
中3の俺は今日の大会を区切りにしばらくは高校受験の為、勉強モードに突入。
いよいよ現役最後の試合になるかもしれないと、朝からいつもより緊張気味に試合会場へ。
思い返せば小学3年から剣道始めてかれこれ7年の歳月。
落ち着きのない性格が治ればと九州出身の母親からの強い薦めでしぶしぶ入会したものの、自分にはなかなかのめり込むことができず、上達もそこそこ。当然のことながら試合で結果も出せない状況が続き、小学校高学年時代には1年間で1勝も出来なかったことも。
同学年の仲間はめきめき強くなる一方、自分だけが取り残された気持ちになり、幾度剣道を辞めようと思ったことか数知れない。
「道場をやめることはいつでも簡単にできる。苦しいけど続けることのほうがきっと難しい。弱い心に負けて簡単に辞めてしまうのか、それとも自身の心に打ち勝って、難しいと思うことに挑戦するのか。自分で自分を鍛えなさい。」とは道場の先生のいつものご指導。
だから苦しくても辛くても、来る日も来る日も通う日々。
でも稽古の度に「母さんが勝手に俺を剣道に引きずり込みやがって!」と反抗し、喧嘩し、何度悲しい思いをさせてしまったことか。
それでも励ましてくれる先生や仲間、自分を信じて応援してくれている両親を裏切ることは出来ない。なにより弱い自分に負けたくないと耐え続けた7年間。
ついにこれが最後か!と臨んだ今回の試合。
『俺は先鋒、チームに勢いを付ける役目。なにがなんでも勝って次鋒に繋げる!』
<リーグ初戦vs児島(岡山)戦>
気持ちだけが空回りし引き分け、しかも力が入りすぎ途中竹刀を落とし反則1回。
それでも他4人がとってくれてチームは勝利。
『あー、今日も俺だけみんなの足を引っ張ってしまうのか・・・』
<リーグ2戦目vs府中中央(広島)戦>
ここに勝てればリーグ突破でトーナメントに進出できる大事な一戦。
気合を入れ直して今度こそ!
そのころ試合場上部観覧席にはビデオカメラを握り締め息子の勝利を祈る父親の姿が。
普段の休みはパチンコに興ずる父親も、この日ばかりは息子の最後の勇姿を見に久しぶりの応援に駆けつけた。
本当ならば会場近くでみんなと一緒に頑張れと声をかけてやりたいところ、もともとシャイで「俺のキャラじゃない」と積極的にみんなの和には加わろうとしない性格。
「上から見とく」と遠くから見守る父。
一本リードの試合中盤、気合十分、渾身の面を繰り出す。
三人の審判の旗が一斉に上がった時、握り締めたビデオカメラを落としそうになりながら、思わず「ヨシッ!」と声が漏れてしまった。
チームは先鋒の勢いに乗り、次鋒以降も勝利を重ね5-0完勝で決勝トーナメントへ進出!
<決勝トーナメント1回戦vs嬉野(三重)戦>
相手は全く知らない三重県からの道場。“遠くからの遠征チーム・・・弱いはずがない”
『俺が負けてしまったらさっきの良い流れが途切れてしまう』ふっと弱気な心がよぎる。
でも仲間と試合前に「よーし行くぞー!」と声をかけあい、
『絶対大丈夫!勝って流れをみんなに渡す!』と自分に言い聞かせる。
お互い有効打突なしのまま終了間際の2分過ぎ、遠間からの捨て身の面が決まり、そのまま勝利。
礼をして戻ると一番近くで正座したままの母親が拍手で迎えてくれた。
俄然勢いに乗ったチームはまたまた5-0の完勝で2回戦へ。
<決勝トーナメント2回戦vs無名塾(福岡)>
ここを超えればベスト8。
相手は昨年優勝・福岡の名門道場。
気づけば道場のみんなと保護者の皆さんが会場を取り囲むように応援に集まってくれている。『ここで負けるわけにはいかない!俺たちは出来るんだ。』
「はじめ」の声がかかる。
・・・つ、強い。竹刀が早い。押される。クソー、負けるか!
必死にもがいて鍔迫り合いからの一瞬の隙をついての引き面も決まらず。
その後こう着状態が続き、勝負に行こうと間合いを取ろうと下がったところ、不覚にも2度目の場外反則・・・。
「まだまだ、まだ取り返せる!」みんなの応援の声が届く。
『今日一番の一本を。自分の一番得意な、全てを懸けた全力の面を打ち込むしかない!』
“やーーーーーっ・メーーーーーーーーーーーーーン!!!”
「ヨシッ、決まった!」
・・・みんなそう思った瞬間、無情にも旗は1本・・・。
終了を告げるホイッスルが鳴る。
『クソー!悔しい!・・・みんなゴメン・・・』
「大丈夫!あとは俺たちが何とかする!」と言ってくれた仲間の応援に廻る。
次鋒2-1勝ち、中堅2-0勝ち、副将0-2負け、大将0-0分けの代表決定戦へ。
代表の大将へ向けた、みんなの祈りも届かず出鼻の面を取られての惜敗。
『あー、終わった・・・俺のせいだ。本当にゴメン、みんな』
うなだれるチームのひとりひとりに、道場のみんなからの拍手が送られる。
「よくやった!惜しかった。でもいい試合だった!」
すべての試合が終了し、解散式で先生から講評を頂いた。
*残念な結果ではあったが、一人一人が「大将に繋げるんだ」という粘りと執念が出ていた戦いぶりだった。
*昨年優勝、今回準優勝の無名塾相手に臆することなく必死さが伝わる良い内容の試合だった。
*3年生は今回で区切りをつけるメンバーもいて、ここまで地道に取り組んできて、やっと南錬成会らしい心に残る試合が出来ていた。
*勝ち負けにこだわらない、無心で捨て身の一本が打てるかどうかが剣道の本当の目的である。自分の全てを懸けた全力の一本を繰り出す事ができれば、勝っても負けても自分も相手も清々しく、更には見ている人をも感動させる。そこにこそ剣道の醍醐味がある。
*南練成会で築いた土台があれば、一生涯に渡って剣道を続けて行くことが出来る。
なんだか心に染みた。
“負けて悔しかったけど気持ちが良かった”と感じることができた。
解散式の最後に先生やみんなから一言挨拶を促されて前に出た。
道場のみんなと顔を合わせたらなんかこみ上げてくるものが有り、
うまく言葉が出てこなかった。絞り出した言葉は
『悔しい結果だったけど、応援ありがとうございました。』だけだった。
終了後に先生から小声で「よくここまで頑張ったな」と声を掛けていただいた。
・・・また少し目に涙が溢れてきた。
その言葉を横で聞いていた母親は、自分にも言って貰ったような気がして、やっぱり涙が溢れてきた。
家に帰って父と母に言った。
『今日は応援ありがとう。受験も絶対勝ちきって、高校へ行っても剣道を続けようと思う』

※この奮闘日記は、とある親子の事実に基づいた経験に、一部フィクションを加えて編集した内容となっています。
南練成会のありのままの姿が、当HPを見ていただいた方々に伝わることを願い、ここに掲載させていただきます。
平成30年9月20日
広島市南錬成会 会長 金輪寿生
広島市南錬成会 会長 金輪寿生